ピンチをチャンスに変えよう(大西)

ピンチをチャンスに変えるとよく言われますが、今回の新型コロナウイルス対応のピンチをチャンスにできる学校は何が違うのかを考えてみたいと思います。

公立の学校では国や設置者である市町の教育員会の判断・指示に従うことが必要です。そのため今何をすべきかを自校で判断できない、また積極的に考えようとしなかった学校が多かったかと思います。もちろん、その一方で、今子どもたちに必要なことは何か、自分たちにできることは何かを考え実行した学校もたくさん目にします。学校全体でこうしようと考え判断したところもありますし、先生方が一人ひとりで今自分にできることを考え工夫している学校もあります。結果に100%満足できなかったとしても、自分たちで考え工夫し実行したことは先生方に大きな手ごたえと自信を感じさせたのではないでしょうか。やがて学校は再開されるでしょうが、未知の状況で新しい学校運営が求められることになります。この時、自分たちで考え・判断して行動した達成感は大きな力となると思います。ピンチがこれからの学校をつくるための基礎体力をつけるチャンスとなったのです。

質はともかく、この事態に対して私立学校の多くは素早く対応しているように思います。公立と違って自校単独で経営判断できることが大きな要因と思います。
公立の学校にそのまま当てはまらないことが多いかもしれませんが、私立の中学校高等学校での取り組みを紹介します。1人1台にiPadがある恵まれた環境だからできることが多いのですが、学校が、先生が変わるために大切なことが見えてくると思います。

政府による臨時休校措置の要請を受けた時には既に学期末だったために、目先の授業進度のことはそれほど大きな問題ではありませんでした。そこで今後のことを考えてICTの活用研修を集中的に行いました。この学校では役に立ちそうなアプリケーションやサービスを積極的に導入しています。有料のものも導入されていますが、一度導入したからといって翌年以降も自動継続というわけではありません。私立の学校は生徒や保護者からいただいているお金という意識が強いので、活用しながら積極的に見直しと入れ替えを行っています。新しいものが入ればその都度研修が必要になりますが、積極的に参加する先生ばかりではありませんでした。しかし、今回のことで、課題配布や提出にICTが有効なことはどの先生も実感しました。予想以上に多くの方が前向きに参加し、学校で使えるアプリケーションやサービスについての基礎的なスキルを身につけました。

積極的な先生は、休校中にオンラインで講演会を開き振り返りを全体で共有するといった先進的な取り組みを行いますが、誰にでもすぐにできることではありません。研修は受けたものの、課題のやり取りをオンラインで行なう程度にとどまる先生がまだ多数でした。この状況を変えたのが、新学年になっても休校が延長されたことです。「このままではいけない」と、先生たちの中に危機意識が生まれてきます。子どもたちの「学びを止めない」が先生方の思いとして共有されました。このことが、ピンチをチャンスに変える原動力になったと思います。
できることをやってみよう。教科主任会が中心となって、ゴールデンウイークまでに一度はオンラインで双方向の取り組みに挑戦しようと呼びかけました。これを使ってこうやってくださいと具体的に指示するのではなく、自分にできることをやろうという呼びかけでした。先生たちは交代で自宅勤務ですので、直接会って相談することもなかなかできません。どうしていいかわからない、何をしようかと悩む先生も多かったと思います。ここでポイントとなるのがホームページを活用した先生方の取り組みの見える化です。学年での取り組みや学級、教科での取り組みを簡単に紹介するのです。
同じように課題を与えて提出させるといっても、通常のワークシートをデジタル化しただけのものもあれば、自分で制作した自己アピールの動画や英語のスピーチといったものもあります。中国のある時代の成立から滅亡までをいろいろなツールを活用してグループごとにスライドにまとめるといった世界史の課題もありました。作ったスライドはオンライン会議システムを使って発表し、その評価をいろいろなツールを活用して共有します。事前に動画を見てからそれぞれ振り返りを提出し、よくわからなかったところを中心にオンラインで解説する授業もあります。また、ネット上でグループの考えをしゃべりながら、共通の画面で作業しまとめ、授業者は子どもたちの作業中はオンライン会議システムの音声だけを使って支援する道徳の授業も行われました。同じようなツールを使っても先生ごとに多様な試みがなされています。
自宅勤務が続きコミュニケーションが取れない時だからこそ、他の先生がどのような取り組みをしているのか気になります。取り組みの様子がホームページ上で紹介されることで、よい刺激とたくさんのヒントが得られます。多様な取り組みがあるから、自分にできそうなことが見つかるはずです。実際にオンラインの授業に挑戦した先生は子どもたちの関わりたい、学びたいという思いを痛いほど感じるようです。オンラインでの取り組みに挑戦する先生の姿がどんどんアップされていきました。
ホームページの記事の中で、「こんな時期だからこそ、自らの興味からより深い内容を追究していける力をつけてくれることを期待しています」といった、先生の思いが書かれていることがあります。ふだん他の先生の授業に対する思いを聞くことは意外と少ないものです。こういう思いを共有することも、先生方が授業を変えていくエネルギーにつながっていくと思います。
もう一つ鍵となるのが、校長の発信です。強制するのではなく、各自でできることに取り組んでもらい、その取り組みを共有する環境をつくった上で、ホームページ上で先生方の取り組みを価値付けしています。こういう状況だからこそ、ホームページは保護者や地域だけでなく、先生をつなぐ道具としても有効になっています。

今回のピンチをチャンスに変えるためには、機器の整備や研修といった環境面の課題が多いことは間違いありません。しかし、環境面が整っているから上手くいくとは限りません。授業と学びコラム「できない理由を探すことより、できることから始めましょう(大西)」でも述べましたが、現在の環境の中でできることからとにかくやることです。それが学校全体の取り組みでなくてもよいのです。たとえ個人の取り組みでも、一人ひとりができることをやろうとする空気をつくることが大切です。管理職は、「できない人がいるからやらないように」と足を引っ張るのではなく、その取り組みを共有し、「できることをやっている」ことを価値付けしてほしいと思います。その有効なツールがホームページです。ピンチをチャンスに変えようとしているかどうかはホームページに現れると思います。
今回のピンチをチャンスに変えることができたどうかは、学校再開後にはっきりするでしょう。一校でも多くの学校が、チャンスに変えられることを願っています。
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