本日は、ご多用中にもかかわらず、板橋区政策経営部長・太野垣孝範様、板橋区議会議員・橋本祐幸様、かなざき文子様をはじめとする大勢のご来賓の皆様にご臨席を賜りました。 学校を代表して、心より御礼申し上げます。
保護者の皆様におかれましては、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。 至らないところも多々あったかもしれませんが、本校教職員は、この3年間全力でお子さんの指導に当たってまいりました。 本校の教育活動に対し、今日まで賜りました皆様のご理解とご協力に、厚く御礼申し上げます。
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さて、卒業生の皆さん。 私は朝礼などこうして皆さんに話せる時間を、自分が皆さんにできる授業だと思ってきました。 黒板も教科書もない、自分の言葉だけを頼りに行う授業です。
そして、今日の卒業式、最後の授業で皆さんに何を語るべきか、この数日間ずっと考えてきました。 そんな時、ふとある曲が脳裏をよぎったのです。 もちろん皆さんは、この曲が何だかわかりますよね。
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そうです。 今から一週間前、三年生を送る会の中で先生方が皆さんのために歌った、アンジェラ・アキさんの『手紙』です。 かつてNHK全国音楽コンクールの課題曲としても使われた曲です。
この曲は、『拝啓 十五の君へ』 というサブタイトルが示すとおり、悩み多き15歳の「僕」が未来の自分に手紙を書き、未来の自分がそれに応えるという設定になっています。
実際に15歳のとき、さまざまな悩みを抱えていたアンジェラさんが自分宛に手紙を書き、30歳の誕生日にその手紙がお母さんから届けられたことをきっかけに作られたのだそうです。
そのことを知ったとき、私も30歳の皆さんに手紙を書こうと思いました。 皆さんが30歳の時、つまり今から15年後といえば、2020年の東京オリンピックでさえ一昔前の話になってしまっています。
多分その時、日本は今とはまた少し異なる新しい価値観で、新しい国のあり方を模索しているに違いありません。そんな時代を生きる30歳の皆さんに宛てた手紙を、今目の前にいる十五の君たちに読もうと思います。
そして、それをもって、私の校長式辞とさせてもらいます。
拝啓 三十の君たちへ。 この手紙を読んでいるあなたは、どこで何をしているのだろう。君たちが板三中を卒業して、15年もの歳月が過ぎましたね。 かつて母校で学んだことを、今でもしっかり覚えていますか。
拝啓 三十の君たちへ。 15年前君たちは、板三中で何を学んだのですか。
国語・数学・理科・社会 … 。 いろいろな教科の内容を、いろいろな先生から学びましたね。 しかし、先生たちが、今も君たちに覚えておいてもらいたいと願っているのは、教科書や黒板に書かれていた知識ではありません。
もっと血の通った、そう、それは友達や先生、先輩や後輩とのふれあいの中から生まれた、笑いや涙、感動や興奮 … つまり「感性」という名のノートに自分自身で書き込んだ、たくさんの思い出なのです。
拝啓 三十の君たちへ。 生意気盛りだった君たちも、今やほとんどの人が社会の第一線で活躍していることでしょう。 年を重ねるごとに、現実の厳しさがわかってきたのではないでしょうか。
自分もまた親となって、君たちのお父さん、お母さんが味わった苦労を、実感している人もいるでしょう。 大人になるということは、決して楽なことではないということがわかりましたか。
大人になってから流す涙だって、あるのですよ。でも、そんなときは、家族や仲間が必ず君たちの力になってくれるはずです。そして、その仲間の一人に、15年前の友達や恩師がいることを覚えておいてください。
拝啓 三十の君たちへ。 君たちが生きる西暦2033年は、どんな世の中ですか。 世界には、まだ戦争を行っている国がありますか。 今日食べるものがなかったために、飢えて死んでいく子どもはいますか。
人間が、貧困や肌の色、宗教や人種によって差別されない世の中ですか。この星に生きる若者達は、自分たちの未来に希望を持てていますか。
拝啓 三十の君たちへ。 君たちが暮らす15年後、この国は、あの頃とどこが変わり、どこが変わっていないのですか。 何を手に入れて、何を失ったのですか。 AI(人工知能)にはけっして持つことのできない「心」を、人々は大切にしていますか。
西暦2033年。 この国では、自分のことよりも、国民の幸せを願う人が政治を行っていますか。 真面目に努力した人、正しいことを貫いた人が報われる国になっていますか。 日本人の中に、自分のことだけでなく、他人のことを思いやれる心はありますか。
社会や学校から、いじめはなくなっていますか。 親と呼ばれる人たちは、わが子のしつけや教育に責任を持っていますか。 学校や学校の先生は、信頼に足る存在になっていますか … 。
拝啓 今私の前にいる十五の君たちへ。
今から15年後、君たちが30歳になったとき、この国がそういう国であるためには、君たち一人ひとりの力が必要なのです。 いつか君たちがどんな道に進もうと、自分がこの国の新しい形を創っていくという自覚と、誇りと、責任をもって生きていってください。
15年後のこの国を、どうかよろしくお願いします。
最後になりましたが、君たちの旅立つ新しい世界が、希望の光に満ちあふれていることを、心から願っています。
卒業おめでとう。 お元気で。さようなら。
追伸 三十の君たちへ。
君たちが板三中を巣立ってから15年の歳月が流れました。 そろそろ同窓会をやってもいい頃ではありませんか。 そのときはぜひ、私たちにも声をかけてください。 自分の人生を、自分の足でしっかりと歩んでいる三十の君たちに会えることを、楽しみにしています。
平成30年3月20日 板橋区立板橋第三中学校長 武田幸雄