『ざんねんないきもの事典』というシリーズ本があります。 生き物の意外な生態を、長所や能力としてではなく「残念な個性」として面白く紹介し、ベストセラーにもなっています。
例えば【脂肪を蓄えたラクダのコブは、エネルギーを使い果たすとしおれてしまう】とか【800Vもの電気で敵を撃退するデンキウナギは、自分も感電してしまう】といった具合です。
ただし、それらが本当に「残念」かといえば、必ずしもそうではありません。本のタイトルは、その動物に対する愛情とユーモアを込めて「ざんねん」と表現しているだけで、ラクダのコブもデンキウナギの発電も、それ自体は大変素晴らしい個性です。
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さて、来年度から本校の校則は『 Be Gentleman(ビィ・ジェントルマン=紳士であれ)』に一本化されます。それに先だって私は、昨年末に生徒会役員の人たちと、この2月には各専門委員長の人たちと話し合いの場を設け、意見交換してきました。
その席上、学校や学年・クラスの代表者からは、一様に期待と不安の声が聞かれました。 期待の声としては「自分たちで考えて行動する力が育つ」「自主自律の精神を身につけられる」といった内容が多かったように思います。
一方、不安の声として圧倒的に多かったのは「髪の毛を染めたり、極端にスカートを短くしたりするなど、学校の雰囲気を悪くする人が出るのではないか」という具体的な内容でした。
そうした不安を払拭するため、私からは『板三中生の誰もが快適な学校生活を送るための約束』を設けるよう提案しました。 ただ、それとは別に、今回の校則の一本化を機に、改めて皆さん一人ひとりに考えてもらいたいことがあります。 それは「個性とは何か」ということです。
さあ、考えてください。あなたの考える個性とは、何ですか?
わざと人と違う言動をとること、わざと奇抜な言動をとることですか? 流行の服や装飾品を、身につけることですか? 目立つ髪の色や髪型にしたり、芸能人に似せたりすることですか?
もし、そうだとしたら、私はそれこそ正真正銘の「ざんねんな個性」だと思います。 なぜなら、それは意図的につくられた個性であり、お金で買える個性だからです。 本来個性とは、つくるものでもお金で買うものでもありません。
個性を「自分らしさ」という言葉に置き換えれば、わかりやすいかと思います。皆さんの「自分らしさ」とは、自分の外側に飾り付けるものですか? 違うはずです。自分の内側からにじみ出てくるからこそ「自分らしさ」なのではないでしょうか。
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最初に述べたとおり『ざんねんないきもの事典』では、愛情とユーモアを込めて「ざんねん」と表現していますが、紹介されている生き物の個性はけっして「ざんねん」ではありません。
ラクダが、2つのコブに蓄えた100kg近い脂肪をエネルギーに変え、約1ヶ月何も食べずに生きていける特長を、私たちはとても真似できません。 自分の何十倍もの大きな体をもつワニを、自ら発した強力な電気で撃退するデンキウナギの能力など、私たちがお金で手に入れようと思っても不可能です。
それと比べ、校則の一本化をいいことに、自分の外側に飾り付ける安っぽい個性、借り物の個性こそ「ざんねんな個性」と言わざるを得ません。
『 Be Gentleman(ビィ・ジェントルマン=紳士であれ)』の校則の下、皆さんが目指すのは「自律の精神」を身につけた中学生です。「ざんねんな個性」で自分を飾る「ざんねんな中学生」にだけは、絶対にならないでください。