ハンセン病という病気があります。皆さんが使用している社会科・公民分野の教科書『人権の保障を実現するための権利』という単元で分かりやすく説明しているので、一部を引用させてもらいます。
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【ハンセン病(かつては、らい病とよばれていました)は、感染力も弱く、薬で完全に治る病気ですが、長い間おそろしい伝染病とされていました。わが国は、1907年に、のちに『らい予防法』となる法律を制定し、1996年に廃止するまで患者と元患者を一生にわたって隔離する政策をとってきました。子どもであっても療養所に強制的に入所させられ、本名を名のることも外出することも許されず、また、子どもをもつことも許されませんでした。療養所に入ることは、家族との関係がなくなることでした。】
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元患者たちは、「らい予防法」を定めた国を相手に、国家賠償を求めて提訴し、2001年、その裁判に勝つことができました。ただし、実はこのハンセン病については、患者本人だけでなく家族も差別を受けたとして訴訟を起こしていたのです。
そして、国の責任を認め賠償金の支払いを命じる判決が出たのが、昨年(2019年)の夏でした。教科書にあるとおり1907年に隔離政策がとられて以来、患者とその家族の名誉が回復するまで、実に112年もの歳月を必要としたのです。
さて、多くの場合人間は、未知なるものに対して恐怖を抱きます。そのこと自体は悪くありませんが、恐怖のあまり冷静な判断ができなくなり、他者を攻撃したり排除したりすることで安心を得ようとすることは許されません。
ハンセン病も、当初は病原菌や治療法が分からない未知の病気でした。そのため患者や家族を排除しようとする誤った法律が作られ、彼らの人権を侵害し、名誉を傷つけ、人生をめちゃくちゃにしたのです。
私が今日そんな話をしたのは、かつてのハンセン病患者や家族に対する人権侵害が、現在のコロナ感染者に対しても行われているのではないかと危惧したからです。
ある学校で感染者が出ると、その人物を特定してネット上にさらし、誹謗・中傷を拡散させる。あるいは、感染者をばい菌のように扱い、差別したりいじめたりする。そして、最終的に自分の周囲から排除しようとする…。 まさにハンセン病における人権侵害と同じ状況です。
それに罹(かか)った人を隔離するだけでは、ウイルスは終息させられません。そのことは、ハンセン病をはじめ過去の感染症が証明しています。したがって、歴史に学べない者が抱く恐怖とは「未知なるものへの恐怖」ではなく、自分が「無知であるがゆえの恐怖」であると言えるでしょう。
先週の火曜日(8月25日)、同じようなことを危惧した文部科学大臣が、児童・生徒などに向けたメッセージを発表しました。その一部も紹介させてください。
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【新型コロナウイルスには誰もが感染する可能性があります。感染した人が悪いということではありません。 (中略) 感染した人や症状のある人を責めるのではなく、思いやりの気持ちを持ち、感染した人たちが早く治るよう励まし、治って戻ってきたときには温かく迎えてほしいと思います。もし、自分が感染したり症状があったりしたら、友達にはどうしてほしいかということを考えて行動してほしいと思います。】
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この他全文を、保護者向けのメッセージと併せて校長通信にも印刷しておくので、ぜひおうちの方と一緒に読んでください。
ウィズコロナの日常が続く中で、今後も本校関係者の「感染者ゼロ」が続くことはあり得ません。しかし、歴史に学べない無知な者と、その無知な者によって傷つけられる感染者は「永遠のゼロ」であり続けたいと、切に願っています。