さる１月２５日、「学問の神様」と呼ばれる菅原道真を祀る全国の天満宮（『天神』ともいわれます）で、「鷽替え（うそかえ）神事」というお祭りが行われました。【鷽（ウソ）】とは、スズメを一回り大きくしたような鳥のことで、鷽替え神事では木彫りの鷽を天神さまから授かります。

　これがその木彫りの鷽です（上の写真参照）。　当日私は、文京区にある湯島天神で３学年分授かってきたので、後ほど各フロアの情報コーナーに置かせてもらいます。

　鷽替え神事では、鳥の【鷽】と、人をだましたり事実とは違うことを言ったりする【嘘（うそ）】を掛けています。つまり、この木彫りの鷽には「去年あった不幸や災いを嘘にして、今年の幸せや喜びに替える」という意味が込められているのです。

　ただ、私が訪れた湯島天神では、もう一つの意味があると説明していました。　それは「私たちが普段ついてしまう嘘を、この木彫りの鷽に託して洗い清めてもらう」言い方を変えれば「自分の中にある嘘をつく心を、正直な心に替えてもらう」といった意味になると、私は解釈しました。

　さて、毎日私は新聞を読んでいるのですが、紙面に人のつく嘘が載らない日はない、と言っても過言ではありません。　悪事を働いた人が、罪を逃れようとしてつく嘘。　企業が不当に利益を上げようとしてつく嘘。　政治家が不正や汚職を隠そうとしてつく嘘…。

　それらの嘘は言語道断ですが、皆さんのまわりにも小さな嘘があふれていませんか？　失敗の言い訳としてつく嘘。大人から叱られないためにつく嘘。周囲に認められたい、称賛されたいという思いからつく嘘…。

　新聞に載るような大きな嘘も、身近にある小さな嘘も、人を嫌な気持ちにさせるという点は共通しています。　にもかかわらず私たちは、時々ある人物に対して、無意識のうちに平気で嘘をついていることがあります。　逆に、その人物から嘘をつかれて、平気でいることもあります。

　その人物とは、「自分」です。

　「自分で、自分に嘘をつく」

　例えば、周りに嫌われたくない、良く思われたいと、必要以上に自分を飾ったり取り繕ったりする。　例えば、誰かの期待に応えようとして、無理や背伸びをしすぎる。　例えば「空気をよむ」という言い方で、本来とるべき行動や言いたい言葉を引っ込める…。　それらは全て、自分の心を偽ること、つまり、自分に嘘をついていることになるのです。

　昨年『同期のサクラ』というＴＶドラマが放映されていました。詳しい内容は省略しますが、新入社員である主人公のサクラは、自分に正直であろうとするあまり会社内で摩擦を起こし、時に落ち込んだりくじけそうになったりします。そんな時必ず、離れて暮らす田舎のおじいちゃんが激励のファクスを送ってくれるのですが、その中にこんな言葉がありました。

　『生きていれば、辛いことだらけだ。でも、人生で一番辛いのは、自分にウソをつくことだ』

　私たちは人に嘘をつかれると、悲しんだり腹を立てたりします。しかし、自分で自分に嘘をついて、平気でいることがあります。だからといって自分に嘘をつき続けていると、いつか本当の自分を見失ってしまうかもしれません。

　ドラマでおじいちゃんが言った「人生で一番辛いのは、自分にウソをつくことだ」というセリフは「人生を自分らしく生きられない辛さ」を教えたかったのだと思います。

　情報コーナーの木彫りの鷽を見て「自分は、人にも自分にも嘘をついていないか」を振り返ってください。もし皆さんがそうしてくれたら、湯島天神に約１時間並んで手に入れた甲斐があります。