１週間後の６月１０日は『時の記念日』です。　祝日ではないのであまり知られていませんが、その歴史は意外に古く、１９２０年（大正９年）に制定されました。

　当時、日本人の生活スタイルを欧米化することで、生活そのものの改善や合理化を図ろうとする運動がありました。　その一環として「時間を守る」とか「時間を大切にする」といった意識を国民に定着させることを目的に、設けられた記念日です。

　では、なぜその日が６月１０日なのかというと、一気に飛鳥時代までさかのぼって６７１年、当時の天智天皇（皆さんの歴史の教科書には『大化の改新』にかかわった中大兄皇子として出ています）が、日本で初めて水時計を使って鐘を鳴らした日が、６月１０日だったからだそうです。

　そんな記念日にちなんで、今日は本校で大切にしている基本的生活習慣【あじみこし】の【じ＝時間】についてお話します。

　時間に関する諺に、有名な「Time is money」（時は金なり）があります。　「時間はお金と同じように大切だから、無駄につかってはいけない」といった意味で用いられることの多い諺です。

　しかし、実は時間の大切さは、お金とは比べものになりません。　なぜなら、失ったお金は取り戻すことができても、失った時間は絶対に取り戻せないからです。

　日本を代表するラグビーのトップ・プレイヤーとして活躍し「ミスター・ラグビー」と呼ばれた平尾誠二という方がいらっしゃいます。　残念ながら３年前、５３歳という若さで亡くなりましたが、その平尾さんは生前こんな言葉を残されています。

　【時間って、命の一部なんですよ】

　先ほどの諺風に英語で表現するなら「Time is life（時は命なり）」。　私は、平尾さんのこの言葉のほうが、時間の本質をとらえているように思います。

　英語つながりでもう一つ教えると、日本語の「暇つぶし」は英語で「killing time」というのだそうです。　直訳すれば「時間殺し」。　時間を無駄にすることは、命の無駄づかいと同じであるという発想は、平尾さんの考え方と共通しています。

　まさに「時間」は「命」と同じで、かけがえのないものです。　「かけがえのない」とは、「他の何ものにも代えられない」ということです。　したがって、時間を守らないことで失うものもまた、取り返しのつかないものであることが多くなります。

　例えば、組織の一員としての自分が時間を守らないと、組織全体の活動を停滞させたり、他の組織員の余計な仕事を増やしたりすることにつながります。　つまり、他者のかけがえのない時間を奪ってしまうことになるのです。　そして、そのことで、自分もまた大切なものを失うことになります。

　それは、自分に対する信用や信頼です。特に社会人として時間を守らずに信用・信頼を失えば、最終的に自分の社会的地位や身分まで失いかねないということを、覚えておいてください。

　さらにもう一つ、時間を大事にしないことで失うものがあります。　実は、先ほどの平尾誠二さんの言葉には、こんな続きがあるのです。

　【時間って、命の一部なんですよ。　今の時間を大事にできない人は、未来の時間も大事にできない。】

　よく「限りある資源を大切に」という言葉を耳にします。　その「資源」の意味を「何かを創りだすための元になるもの」と解釈するならば、私たちのもつ最大の資源は「時間」であると言えるかもしれません。　もし、そうだとしたら、「今、この時」という限りある資源を無駄にし続ければ、自分の願う未来も創造できなくなるでしょう。

　「自分の信用・信頼」と「自分の願う未来」。　それらを失わないためにも、かけがえのない時間を大事に、限りある時間を大事に、「今、この時」を大事に生活してもらいたいと思います。